「隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS」

 黒澤明監督作品をリメークした「隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS」(2008年、樋口真嗣監督)。戦国時代に隣国に滅ぼされた国の姫と侍大将が、百姓2人を同伴して敵領を抜け、同盟国へと向かう―というストーリーの大筋はオリジナルと変りないが、主人公を三船敏郎が演じた真壁六郎太から金堀り師の武蔵(松本潤)に変更するほか、雪姫(長沢まさみ)の描写を厚くするなど、独自色を出そうとする制作陣のこだわりが見て取れた。

 序盤から中盤に掛けては、オリジナル脚本がベースになっているが、▽正義感が強い武蔵、したたかな木こりの新八(宮川大輔)といった今作ならではの人物設定▽自分のために家臣や民が死んでいくことへの雪姫の苦悩、真壁六郎太(阿部寛)と妹の別離の描写―なども奏功。敵役の椎名桔平や、男色の関所侍役の高島政宏の好演や怪演もあって、観客を作品に引き込む“引力”が体感できた。

 振り返れば黒澤明監督版では、上原美佐ふんする雪姫は高貴な気高さが魅力的だっだ。その結果、作品全体の雰囲気が男っぽくなり、それが冒険活劇としての爽快感をより高めていたと思う。

 これに対し、樋口真嗣監督版は、終盤に入ると武蔵と雪姫の「関係」がストーリー展開の軸になる。雪姫は武蔵に愛情を抱くわけだが、結果として、その描写のさじ加減、すなわち「愛」の描写がやや過剰であったため、今作の風合いをチープなものにしてしまった印象は拭えない。

 雪姫の扱い(キャスティングも含めた)次第で、作品全体の魅力はもっと増したのではないか―。樋口真嗣監督のリメークへのアプローチは悪くなかっただけに、残念な気がした。