「クライマーズ・ハイ」

 日航機墜落事故の報道にかかわった群馬県の地方紙社員の人間模様を描く、横山秀夫原作の「クライマーズ・ハイ」が、原田眞人監督によって映画化された。未曾有の大事故に遭遇した新聞記者たちの姿と、新聞社内の人間模様を絡み合わせた原作には引き込まれたが、映画版は原作の「つまみ食い」のように見えてしまった。
 北関東新聞の遊軍記者である悠木(堤真一)は、1985年8月の御巣鷹山日航機が墜落した事故に際し、全権デスクを命じられる。その日、悠木は同僚の安西(高嶋政宏)と谷川岳に登る予定だったが、安西は深夜の街中で倒れ、意識不明になっていた。
 文庫で460ページの原作を2時間25分にまとめ、監督独自の味付けを加味するのは、容易なことではなかっただろう。登場人物や設定をまとめる必要性も理解できる。
 それでも、例えば悠木の生い立ちと、息子との微妙な親子関係などは、作品の主軸の一つのはず。映画版では省略され、設定も変更されたことで、悠木のキャラクターは厚みに欠けてしまった印象は拭えない。安西の息子との関係も説明不足。堤真一は好演していただけに、残念だ。
 原作を読まなければ、群馬県の地元紙の人々が日航機墜落事故に際し、どのような数日間を送ったのかを知る良い機会となる作品だろうが、原作読了後に見ると、どうにも物足りない。
 悠木は上司を怒鳴りつけ、言いたいことを言い、喧嘩もする。しかし、程なくして、同じ上司に特ダネの相談を持ち掛けもする。一般的な会社文化からすれば、なんとも奇妙な人間関係だ。こうした新聞社内の様子をリアルに描出しようと、原田眞人監督は手ぶれのカメラワークを多用していたが、それほど大きな効果は上がっておらず、かえって目障りだった。