「崖の上のポニョ」

 宮崎駿監督の4年ぶりの新作映画は「崖の上のポニョ」(2008年)。プレス資料によれば、アンデルセンの「人魚姫」の宗教色を払拭し、幼い子供たちの愛と冒険を描く物語で、「神経症と不安の時代に立ち向かおう」というのが今作の製作意図だという。
 海辺の小さな町の崖の上で暮らす5歳の宗介は、ある日、ビンの中に頭を突っ込んでいた魚の子、ポニョと出会う。お互いに好意を抱き、宗介は家出していたポニョを「僕が守ってあげる」と誓うが、ポニョの父フジモトはポニョを海に連れ戻して―。
 コンピューターグラフィックス(CG)を用いず、すべての場面が手書きで製作されたという。それだけに、アニメーションからは温もりが感じられる。制作陣が完ぺきに描き切ったのが海。中でも、目を施して擬人化した波の描写が、生々しく、見事だ。海の「青」に対する陸の「緑」の美しさも味わい深い。
 一方、物語の方は、友情や親子愛などが各エピソードに詰まってはいたが、ストーリーは中盤以降は難解になり、全体として見る側に想像力を要求するものだったような気がする。「神経症と不安の時代に立ち向かう」という宮崎駿監督のメッセージは、すべての観客に伝わっただろうか? 「優しいアニメーション」と「不親切なストーリー」。アニメーションとストーリーのバランスの悪さが、気になって仕方がなかった。
 映画のラストは、リフレインが印象的な主題歌。関係者の名前を50音順に並べた可愛いエンドクレジットも楽しい。