「さくらん」

 江戸時代の吉原遊郭を舞台に、一本気なおいらんの姿を描く「さくらん」(2007年)。フォトグラファーとして活躍する蜷川実花監督が、安野モヨコの漫画を映画化した作品で、原色を多用した斬新な色彩表現、3人のおいらんの多様な人生模様、土屋アンナの素の演技が魅力と言えるだろう。
 8歳で吉原の遊郭に足を踏み入れ、脱走を繰り返しながらも、遊女として生きることを決意するヒロインきよ葉。ふんする土屋アンナは自然な演技を披露。「演じている」というよりも、自分自身をきよ葉に重ね合わせているかのようだ。
 蜷川実花監督は、作品全体を通してエロスのにおいを薄めている印象。特に女性に温かい視線を注いでいる点に、好感が持てる。
 一方、演出に当たっては、俳優が自由に演じさせているようだが、「野放し」とも言えなくもない。あくが強い一部の出演者の演技が、時にオーバーに感じられる局面も。“演出家”としては「これから」なのかもしれない。
 土屋アンナを除く2人のおいらん役に目を向けると、おいらんとしての矜持や覚悟、妖艶さを漂わせる菅野美穂は、確かな演技力を見せていた。一方の木村佳乃は「嫉妬」と「愛」の2つの感情の表現を試みていたが、気迫が空回りしていた気がしなくもない。