「日本一のゴリガン男」

 3月27日、植木等さんが亡くなった。同28日付の朝日新聞朝刊社会面に掲載された、「無責任男が受けたのも、根がまじめだから」という放送作家はかま満緒さんのコメントが印象的だった。合掌。
 クレイジーキャッツはテレビ、映画、音楽など各分野で多大な功績を残したが、映画について言えば、市井の市民やサラリーマンに「気楽に頑張ろう」という、優しく、時を経ても色あせないメッセージを送ってくれたことだろう。その中心的な発信者が植木さんだった。
 植木さん逝去を契機に、古沢憲吾監督の喜劇「日本一のゴリガン男」(1966年)を鑑賞。植木さんが演じるのは、落ちてきた鉄骨が頭に当たり、手術を受けて頭の回転が入院前より100倍良くなった日本等。1年後に退院すると、勤めていた商社がつぶれており、同じビルに入居していた「統南商事」に月給なしで働くことに。食品代理店の招待を成功させたのを皮切りに、おもちゃ、墓地、イオン交換樹肪で水の性質を変える装置の販売で成績を上げていく。
 不況対策で希望退職者を募っているという統南商事で、社長のご都合主義で仕事に横槍を入れられても、合理的な発想と柔軟な方針転換、図々ししさとバイタリティーを原動力に次々に成果を上げる日本等。組織に押しつぶされず、「職業別電話帳1冊あれば、どんな商品だって売りまくる」と言い切る気概を持っている、実に魅力的なキャラクターである。
 作品中、植木さんの歌声が随所で堪能できるが、声量のなんと豊かなことか。統南商事による食品代理店招待の場面で、植木さんと人見明との歌や踊りの競演も、純粋に楽しい。チーフコック役の田中邦衛、悪徳市議役の藤田まことの個性も光っていた。(了)