「ラスト・サムライ」

 10日、テレビ朝日系で放送された「ラスト・サムライ」(2003年)を再見しました。渡辺謙のハリウッド進出の端緒となった作品だけあって、彼の演技は見事です。個人的には、息子と最後の別れをする際の勝元の表情が忘れられません。以下、公開当時に書いた原稿を再編して掲載します。

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◎「人生を見詰め直す作品に」―トム・クルーズ

=日本が舞台の映画「ラスト・サムライ

 明治維新直後の日本が舞台の映画「ラスト・サムライ」(エドワード・ズウィック監督)。米兵と日本の侍が対立を超え、心を通わせる姿を描く歴史大作で、主演は製作も兼ねるトム・クルーズ。来日時の会見で、「アーティスト、哲学者でもあり、忠誠心や思いやりを忘れない侍について学ぶ中で、自分の人生を見詰め直しました」と語った彼の、深い思い入れが垣間見られる一作だ。

 ◇説得力ある物語、迫力の戦闘シーン

 時は1876年。南北戦争、インディアン討伐戦などに参加した英雄、ネイサン・オールグレイン大尉(クルーズ)は、軍隊の近代化を目指す明治新政府の招きで来日する。その直後、徴兵された農民の訓練がままならないうちに、新政府と対立する勝元盛次(渡辺謙)が率いる侍の一族と戦い、その最中にとらわれの身となってしまう。
 オールグレインは、勝元の領地で生活する中で、彼らの武士道精神に感銘を受け、勝元との友情を次第に深めていく。やがて解放され、帰国することになるが、新政府に追い詰められた勝元の窮地を救い、彼と政府軍の最後の戦いに助力する。
 女性や子供も殺したインディアン討伐戦争に参加し、自分自身を見失ったオールグレイン大尉。礼節や名誉を重んじ、ストイックに生きる勝元らに心引かれ、再生していくストーリーは、説得力がある。戦闘シーンも迫力十分である上に、戦争の悲惨さ、人が死んでいくことの悲しさが、しっかりと描き込まれている。
 そして、過去、ハリウッド映画に散見された日本への無理解は、この映画にはない。設定に若干の矛盾はあるものの、日本人の精神性、19世紀の日本の情景を丁寧に表現しようと試みるクルーズら製作陣の情熱が、画面にみなぎっているのが印象深い。

◇「異文化の理解を」とメッセージ

 この映画のテーマは「異なる文化の融合」と、ズウィック監督。クルーズは「相手への無知が偏見を招き、人種差別や文化的な孤立、さらには戦争を引き起こすのだと思う。人間には、異なる文化を理解する柔軟性が大切ということが、作品の根底に流れるメッセージなのです」と話す。捕虜になって心を閉ざすオールグレイン大尉に、勝元が何度も会話を求め、徐々に理解し合うプロセスなどは、クルーズの言葉の裏付けになっているようだ。
 今回、重いかっちゅうを身につけての演技に備え、撮影前に体重を10キロほど増やしたというクルーズ。新渡戸稲造の「武士道」などの本や資料を読み込んだり、空手や剣術の訓練を積んだりして、役作りに情熱を注いだ。米国、日本、ニュージーランドで行われた撮影は1年余りに及んだが、「何も学ばない日は一日もなかった」と、刺激の大きさを表現する。
 一方、真田広之小雪原田眞人ら、日本人キャストは総じて健闘しているが、その中でも好演が際立つのが渡辺だ。「外国で仕事をする環境に身を置き、思った以上に日本は小さいと実感した。僕のバックグラウンドを知ってもらいたい一心で撮影に臨んだ」と振り返っていた。(了)