「クライング・フィスト」

 韓国の名優チェ・ミンシクの出演作として選んで鑑賞した結果、彼の俳優としての覚悟と演技力の奥深さを再確認しつつ、共演のリュ・スンボムの負けず劣らずの存在感に驚かされた。「クライング・フィスト」(2005年)は、最悪の状況に転落した2人の男の再生の物語である。
 かつてアジア大会でボクシングの銀メダルを獲得した中年のカン・テシク(チェ・ミンシク)は、事業に失敗。妻と最愛の息子から離れ、殴られ屋として生計を立てる破目に。一方のユ・サンファンリュ・スンボム)は19歳で、荒んだ生活が高じて少年院送りとなり、そこでボクシングと出合う。
 年齢も境遇も異なり、何の縁もない2人だが、前者は自らのプライドを取り戻すため、後者は家族のために新人王を目指すことに。リュ・スンワン監督は、決勝戦で遭遇するまで2人を一度も交錯させず、それぞれの生き様や葛藤を綿密に積み重ねていく。だからこそ、リングでの2人の死闘に緊迫感が宿り、見る側の感情移入を容易にしているのだろう。
 決勝戦での死闘の後のラストシーンには素直に感動したが、願わくば、2人の闘いに勝敗を決してほしくなかった。2人が葛藤を乗り越えるプロセスは平坦ではなく、切実なものだったから。(了)