「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲」

 テレビアニメの放送開始から15年目を迎えた「クレヨンしんちゃん」。ちょっと下品な描写から、日本PTA全国協議会調査で「子どもに見せたくない番組」の上位の常連になっている。一方で、教科書の題材として採用されたり、映画シリーズ「嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦」(2002年)が文化庁メディア芸術祭のアニメーション部門大賞を受賞したりと、評価が二分している様子だ。
 そこで、「大人も楽しめる作品」として評価が高い「嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲」(01年)を鑑賞。
 テーマパーク「20世紀博」に夢中になり、大人たちを過去に束縛しようとする企てに、しんちゃんが「家族」や「未来」を取り戻そう立ち上がる物語。「時間よ、止まれ」という人間の潜在意識と、未来に向けて今を懸命に生きることの意味を対比させるテーマの何と深遠なことか。
 秀逸なのは、人間賛歌の視点が貫かれていることだ。しんちゃんの父ひろしが正気を取り戻す際に、幼少期から上京、就職、結婚、妻みさえの出産などを回想する場面があるが、家族の素晴らしさ、今を生きることの尊さを極めて的確に、どこまでも美しく描写している。数分のシーンだが、涙を禁じえない。
 おしりを頻繁に出したり、追跡してくる車に放尿したりと、確かに品のない描写がなくもないが、ナンセンスギャグの許容範囲内ではないか。むしろ、家族愛や友情、人生賛歌というテーマの素晴らしさに目を向けたい。