「皇帝ペンギン」
テレビ、映画を問わず、野生生物を扱うドキュメンタリーにおいて、その生態を収録する製作者の苦労は並大抵のものではないだろう。南極大陸に生きるコウテイペンギンの1年間を見詰めたフランス映画「皇帝ペンギン」(2005年)では、動物行動学者でもあるリュック・ジャケ監督が、8880時間という膨大な時間を費やし、ペンギンの親子の姿を撮影したという。
繁殖の地を目指すペンギンの行進。パートナーを見つけるための求愛のダンス。産んだ卵を雄に託し、えさを求めて100キロも離れた海へ出発する雌たち。その間、雄たちは仲間と寄り添い、絶食して卵を守る。生まれてきた子供のなんと可愛らしいことか。そして巣立ち。厳しい環境下の命の営みを丹念に見詰めた映像の数々に、目を奪われる。
最も特徴的な表現手法は、ペンギンを擬人化したロマーヌ・ボーランジェらによるナレーションだろう。言葉なきペンギンの思いは、確かに代弁されているようだ。ペンギンが海中で魚を捕まえようとしたりする様子も、ペンギンの視線で見た映像で切り取られている。
ただ、ナレーションの擬人化については、見る者の感性によって受け止め方が異なるはず。この作品は、今年の米アカデミー賞の長編ドキュメンタリー賞を受賞したが、米国公開に際してはモーガン・フリーマンの語りで生物学的な解説が付けられたという。こうした擬人化に否定的なスタンスは、個人的には共感するところだ。映像への集中力が削がれるから。