「休暇」

 刑務所のベテラン刑務官の平井(小林薫)は、シングルマザー美香(大塚寧々)との結婚を決める。2人の結婚式が迫る中、死刑囚の金田(西島秀俊)の執行命令が下る。執行時の「支え役」を務めれば1週間の特別休暇が与えられるのだが、平井は新婚旅行に出掛けるため、支え役を志願する―。
 「他人の命を奪うことで得られる幸せは、果たして本当の幸福と言えるのだろうか…?」。吉村昭の短編小説が原作の映画「休暇」(門井肇監督、2008年)のパンフレットの一節である。
 人間の命は、すべからく尊いのは間違いない。死刑囚といっても人間だ。しかし、死刑判決を受けるほどの重罪を犯した人は、命をもって罪を償うべきではないか?
 平井について言えば、美香と、彼女の連れ子との関係を深めるため、休暇を欲するのは自然な感情であろう。支え役は刑務官の職務だ。一方で、結婚式目前に、それも日常的に接している金田の死に手を貸すことに、平井や周囲の刑務官の心中に葛藤が生じるのも、また当然のことだ。
 淡々としたタッチで描写される物語を通じて、こうした思いが次々に頭の中を巡る。なんとも立ち位置を定めにくい作品だった。
 出演の俳優たちは総じて好演だったが、平井の多種多様な思いを凝縮させた、小林薫の抑制された演技が特に印象深かった。